こんにちは。コンテンツ部顧問のnoriです。
今回は、NHK BSで放送された「ハンス・ジマー 映画音楽の革命児」の補足資料の記事になります。
昨年の12月に3周に渡り、クリストファー・ノーランの作品を35㎜版で鑑賞しました。「インセプション」「インターステラ」「ベルセルク」の3本です。いずれのサウンドトラックもハンス・ジマ-の作曲によるものでした。
コンテンツ部でもハンス・ジマ-ファンも結構いることが分ってきました。過日NHK BSで放映された「ハンス・ジマ- 映画音楽の革命児」を視聴した方も多いと思います。この記事を書きながらもハンス・ジマーは勿論のこと、ヘンリー・マンシーニ、エンニオ・モリコーネ、ラロ・シフリン等々、僕の頭に作曲家の名前と音楽が流れます。ところが、冷静に考えてみると映画音楽に携わっている彼らの資料は通常の音楽雑誌等に掲載されることは少ないのです。映画のパンフレット等を購入すれば資料として少し読めるのですが、音楽雑誌等の掲載は少なく感じます。ハンス・ジマーもその一人でした。最新ではないものの本当に貴重な映像ですね。
彼の凄いところは、映画音楽の携わり方でしょう。リストを調べてみると、
- ワールド・アパート A World Apart(1988年)
- レインマン Rain Man(1988年) - アカデミー賞ノミネート
- ブラック・レイン Black Rain(1989年)
- ドライビング Miss デイジーDriving Miss Daisy(1989年)
- ダイヤモンド・スカル Diamond Skulls(1989年)
- デイズ・オブ・サンダー Days of Thunder(1990年)
- グリーン・カード Green Card(1990年)
- バックドラフト Backdraft(1991年)
- テルマ&ルイーズ Thelma & Louise(1991年)
- 心の旅 Regarding Henry(1991年)
- ラジオ・フライヤー Radio Flyer(1992年)
- プリティ・リーグ A League of Their Own(1992年)
- トイズ Toys(1992年)
- トゥルー・ロマンス True Romance(1993年)
- クール・ランニング Cool Runnings(1993年)
- 愛と精霊の家 The House of the Spirits(1993年)
- スペース・レンジャーズ Space Rangers(1993年)
- 勇気あるもの Renaissance Man(1994年)
- ライオン・キング The Lion King(1994年) - アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、グラミー賞受賞
- ドロップ・ゾーン Drop Zone(1994年)
- クリムゾン・タイド Crimson Tide(1995年) - グラミー賞受賞
- 9か月 Nine Months(1995年)
- 愛に迷った時 Something to Talk About(1995年)
- ブロークン・アロー Broken Arrow(1996年)
- マペットの宝島 Muppet Treasure Island(1996年)
- ザ・ファン The Fan(1996年)
- 天使の贈りもの The Preacher's Wife(1996年) - アカデミー賞ノミネート
- ピースメーカー The Peacemaker(1997年)
- 恋愛小説家 As Good as It Gets(1997年) - アカデミー賞ノミネート
- プリンス・オブ・エジプト The Prince of Egypt(1998年) - アカデミー賞ノミネート
- シン・レッド・ライン The Thin Red Line(1998年) - アカデミー賞ノミネート
- エル・ドラド/黄金の都 The Road to El Dorado(2000年)
- グラディエーター Gladiator(2000年) - ゴールデングローブ賞受賞、アカデミー賞ノミネート
- ミッション:インポッシブル2 Mission: Impossible II(2000年)
- プレッジ The Pledge(2001年)
- ハンニバル Hannibal(2001年)
- パール・ハーバー Pearl Harbor(2001年)
- 神に選ばれし無敵の男 Invincible(2001年)
- サンキュー、ボーイズ Riding in Cars with Boys(2001年)
- ブラックホーク・ダウン Black Hawk Down(2001年)
- ザ・リング The Ring(2002年)
- ティアーズ・オブ・ザ・サン Tears of the Sun(2003年)
- パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl(2003年)
- マッチスティック・メン Matchstick Men(2003年)
- ラスト サムライ The Last Samurai(2003年)
- 恋愛適齢期 Something's Gotta Give(2003年)
- キング・アーサー King Arthur(2004年)
- サンダーバード Thunderbirds(2004年)
- シャーク・テイル Shark Tale(2004年)
- マダガスカル Madagascar(2005年)
- バットマン ビギンズ Batman Begins(2005年) - ジェームズ・ニュートン・ハワードとの共同制作
- ニコラス・ケイジのウェザーマン The Weather Man(2005年)
- ダ・ヴィンチ・コード The Da Vinci Code(2006年) - ゴールデングローブ賞ノミネート
- パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest(2006年)
- ホリデイ The Holiday(2006年)
- パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド Pirates of the Caribbean: At World's End(2007年)
- ザ・シンプソンズ MOVIE The Simpsons Movie(2007年)
- カンフー・パンダ Kung Fu Panda(2008年) - ジョン・パウエルとの共同制作
- ダークナイト The Dark Knight(2008年) - ジェームズ・ニュートン・ハワードとの共同制作、グラミー賞受賞
- フロスト×ニクソン Frost/Nixon(2008年) - ゴールデングローブ賞ノミネート
- あの日、欲望の大地で The Burning Plain(2008年)
- マダガスカル2 Madagascar: Escape 2 Africa(2008年)
- コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア2 Call of Duty: Modern Warfare 2(2009年) - 初のビデオゲーム作品である。メインテーマなどを担当。
- 天使と悪魔 Angels & Demons(2009年)
- 恋するベーカリー It's Complicated(2009年)
- シャーロック・ホームズ Sherlock Holmes(2009年) - アカデミー賞ノミネート
- インセプション Inception(2010年) - アカデミー賞ノミネート
- 幸せの始まりは How Do You Know (2010年)
- メガマインド Megamind(2010年)
- 僕が結婚を決めたワケ The Dilemma(2010年)
- ランゴ Rango(2011年)
- クライシス2 Crysis 2(2011年) - メインテーマを担当
- パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉Pirates of the Caribbean: On Stranger Tides(2011年)
- カンフー・パンダ2 Kung Fu Panda 2(2011年) - ジョン・パウエルとの共同制作
- シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム Sherlock Holmes: A Game of Shadows(2011年)
- マダガスカル3 Madagascar 3: Europe's Most Wanted(2012年)
- ダークナイト ライジング The Dark Knight Rises(2012年)
- マン・オブ・スティール Man of Steel(2013年)
- ローン・レンジャー The Lone Ranger(2013年)
- それでも夜は明ける 12 Years a Slave(2013年)
- ラッシュ/プライドと友情 Rush(2013年)
- ダイバージェント Divergent(2014年)
- アメイジング・スパイダーマン2 The Amazing Spider-Man 2(2014年) - The Magnificent Sixとの共同制作
- ニューヨーク 冬物語 Winter's Tale(2014年) - ルパート・グレッグソン=ウィリアムズとの共同制作
- インターステラー Interstellar(2014年) - アカデミー賞ノミネート
- チャッピー CHAPPiE(2015年)
- ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気 Freeheld(2015年)- ジョニー・マーと共同制作。
- リトルプリンス 星の王子さまと私 The Little Prince(2015年)- リチャード・ハーヴェイとの共同制作
- バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生 Batman v Superman: Dawn of Justice(2016年) - ジャンキーXLとの共同制作
- インフェルノ Inferno(2016年)
- ドリーム Hidden Figures(2016年) - ファレル・ウィリアムス・ベンジャミン・ウォルフィッシュと共同制作。
- ボス・ベイビー The Boss Baby(2017年) - スティーヴ・マッツァーロとの共同製作
- ダンケルク Dunkirk(2017年) - アカデミー賞ノミネート
- ブレードランナー 2049 Blade Runner 2049(2017年) - ベンジャミン・ウォルフィッシュとの共同制作
- ロスト・マネー 偽りの報酬 Widows(2018年)
- X-MEN:ダーク・フェニックスX-Men: Dark Phoenix(2019年)
- ライオン・キング The Lion King(2019年)
- ワンダーウーマン 1984 Wonder Woman 1984(2020年)
- ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌 Hillbilly Elegy(2020年) - デヴィッド・フレミングと共同制作。
- 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ No Time to Die(2021年)
- DUNE/デューン 砂の惑星 Dune(2021年) - アカデミー賞、ゴールデングローブ賞受賞
- アーミー・オブ・シーブズ Army of Thieves(2021年)
- 消えない罪 The Unforgivable(2021年)
- アウシュヴィッツの生還者 The Survivor(2021年)
- トップガン マーヴェリック Top Gun: Maverick(2022年)
- The Son/息子 The Son(2022年)
関わったその他の作品
- マイ・ビューティフル・ランドレット My Beautiful Laundrette(1985年) - 音楽プロデューサー
- ラストエンペラー The Last Emperor(1987年) - スコア・プロデューサー
- ザ・ロック The Rock(1996年) - 音楽プロデューサー
- フェイス/オフ Face/Off(1997年) - スコア・プロデューサー
- アンツ Antz(1998年) - 音楽プロデューサー
- アイ・アム・サム I Am Sam(2001年) - 音楽プロデューサー
- BLOOD+ Blood+(2005年) - 音楽プロデューサー。マーク・マンシーナと共同で担当する初の日本アニメ
- ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ! Wallace & Gromit in The Curse of the Were-Rabbit(2005年) - 音楽プロデューサー
- おさるのジョージ Curious George(2006年) - 音楽プロデューサー
- プレステージ The Prestige(2006年) - 音楽プロデューサー
- 奇跡のシンフォニー August Rush(2007年) - テーマ曲
- バンテージ・ポイント Vantage Point(2008年) - ミュージック・コンサルタント
- アイアンマン Iron Man(2008年) - 音楽プロデューサー
- 怪盗グルーの月泥棒 3D Despicable Me(2010年) - 音楽プロデューサー
- バレット Bullet to the Head(2012年) - 音楽プロデューサー
- BEYOND: Two Souls Beyond: Two Souls(2013年、PlayStation3用アクションアドベンチャーゲーム) - 音楽プロデューサー
- すばらしき映画音楽たち Score: A Film Music Documentary(2017年、ドキュメンタリー映画) - 出演
- リビングフットボール "living football"(2018年) - ローン・バルフと共作。「2018 FIFAワールドカップ」以降、国際サッカー連盟(FIFA)の新しいアンセムとして使用されている。
- ハンス・ジマー 映画音楽の革命児 Hans Zimmer: Hollywood Rebel (2020年、BBC Studios テレビドキュメンタリー) - 出演。日本ではNHK『BS世界のドキュメンタリー』および『ドキュランドへようこそ』で放送。
- 2020年東京オリンピック開会式 「イマジン」(2021年) - ジョン・レノン「イマジン」をアレンジ。
とまあ数多くの作曲をこなしていることが分かります。皆さんも幾つかの作品で彼の音楽を耳にしたのではないかと思います。今となっては本当に作品数が多すぎて何を聴いたら良いのですがという質問が来そうです(笑)。僕は「ライオン・キング」と「パイレーツ・オブ・カリビアン」のサウンドトラックをお薦めします。一度は耳にしたであろう、あのメロディーが頭の中で、耳で再度確認できると思います。
ハンス・ジマーとはどのような人物なのでしょうか
ハンス・ジマー(Hans Florian Zimmer1957年9月12日生 )は、ドイツ出身の作曲家。映画音楽の制作で知られています。
これまでに計12回のアカデミー賞ノミネート(内受賞2回)、計15回のゴールデングローブ賞ノミネート(内受賞3回)、計4回のグラミー賞受賞など、数多くの受賞経験を有する最も著名な映画音楽作曲家の一人でしょう。
10代でイギリスに渡り、その後アメリカに移り住む。現在は妻スザンヌと4人の子供とともにロサンゼルス在住。西ドイツ(当時)のフランクフルトで生まれ、10代でイギリス・ロンドンに移住し、学費が高いことでも知られる名門ハートウッドハウス・スクールに通います。キーボードとシンセサイザーの演奏者として、「ラジオ・スターの悲劇」で有名なバグルスなどのバンドと仕事をしていました(「ラジオ・スターの悲劇」のミュージックビデオで、ジマーの姿を確認できます)。
1980年代にイギリスの映画音楽作曲家スタンリー・マイヤーズに師事した後、渡米。1988年の『レインマン』の音楽がアカデミー賞にノミネートされ、一躍脚光を浴びることになります。
2000年代以降は、特にクリストファー・ノーラン監督とのタッグで知られ、『バットマン ビギンズ』以降の長編7作品中6作品で作曲を担当しており、内3回でオスカーノミネーションを果たしています。
後進の育成に積極的であり、自身が率いる作曲家グループ「リモートコントロール」(旧名:メディアベンチャーズ)の門下生には、マーク・マンシーナ、トレヴァー・ラビン、ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ、ルパート・グレッグソン=ウィリアムズ、クラウス・バデルト、スティーヴ・ジャブロンスキー、ラミン・ジャヴァディ、ローン・バルフ等がいます。あくまでも個人的な推測なのですが、彼らとの交流が作曲活動は勿論の事、最新の音楽や楽器、ソフト等々の情報交換の場になっていると思います。
1994年の『ライオン・キング』、2021年の『DUNE/デューン 砂の惑星』でアカデミー作曲賞および、ゴールデングローブ賞を受賞します。
作品の特徴
シンセサイザーとオーケストラをミックスさせた、壮大で耳当たりの良いメロディアスな楽曲が特徴的です。低音域の強調やミュート、コーラスなども効果的に用い、映像の展開や演者の動き、また心境の変化などにも合わせた緻密な編曲を組むだけでなく、場面や舞台に応じた幅広いジャンルの曲調を操ることもできます。従来はバックグラウンドで単調に流される傾向が強かった映画音楽の役割を、これまで以上に演出効果の一部として音楽に担わせることを成功させています。
注意:僕が思う彼の素晴らしい所は、本格的な活躍が1980年代後半を考えると、既にMIDIやデジタルシンセ、16ビットサンプラーが主流になってきた頃になります。シンセを多用するのが彼の特徴ですが、デジタルシンセが主流になる前のアナログシンセにも精通しているところに特徴があると思います。検索ソフトを走らせてみるとムーグのシステム55やポリフージョンなどのパッチ式モジュラーシンセ、セミモジュラーシンセであるアープ2600、ポリフォニックシンセサイザーであるプロフェット5等の多くのアナログシンセを背景にした写真が出てきます。ドキュメンタリーで出てくるフェアライトCMIシリーズⅢは本体が8ビットから16ビットにアップグレードしたものですが、楽しく使っている姿が見られますし、スタジオではその時代時代でシステムが変わりますが、大きなディスプレイを前にPCメインでサンプリング音源(ライブラリーと呼びます)、ソフトシンセやプラグインエフェクターを大量に使いながら作曲していることが分かると思います。そこで気づくのが譜面を持っている姿の写真を僕自身も見たことがないことでした。映像でもその印象は変わりません。つまりその当時からディスプレイを見ながら作曲をしていたことが分かります。作曲自身は音との対話で作曲をするのですが、譜面からの音ではなくディスプレイ(PC)からの音が彼の譜面ということが分かります。とはいっても現在のスタジオにもかつて使っていた幾つかのシンセがあり、その面影がしっかり残っていますね。
作曲にはWindowsマシン上のCubaseを用いており、彼オリジナルのサンプル音源やVST Expressionを駆使して自分の頭の中で鳴る音楽を表現しているようです。
その他
『ザ・ロック』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』のテーマは特に有名ですね。
日本ではフジテレビ系で放送されていた『料理の鉄人』のBGMにも使われた映画『バックドラフト』のテーマ曲などが有名ですね。また日米両国で大ヒットを記録した『ラスト サムライ』のサントラ作曲を手掛けたましたが、これはちょうど彼の100作品目という節目であったようです。また、世界的人気ゲームである『Call of Duty』シリーズの1作品である『Call of Duty: Modern Warfare 2』にて初めてゲームに楽曲を提供し話題にもなりました。
最後に少し古い記事になりますが、作曲にはCubaseを使っている関係でその開発元のスタインバーグ社のインタビューを掲載します。
Hans Zimmer - "Inception" と、彼の選ぶ DAW
“映画音楽界の頂点で活躍するハンス・ジマーについては、もうご紹介する必要もないでしょう。それでもなお、次から次へと伝えられる彼の活躍には毎回驚かされるばかりです。
これまで100以上の映画音楽を手がけ、オスカーを1度、ゴールデングローブを2度、グラミーを3度受賞し、ノミネートを加えると数え切れない経歴を誇るハンス・ジマー。先週はハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに彼の星が加わる事が決定し、二週間前は「インセプション」と「シャーロック・ホームズ」のサウンドトラックが次のグラミー賞ベストサウンドトラックアルバム賞にノミネートされたばかりです。Steinberg からも彼の多大な活躍を、心からお祝い申し上げます。
あなたは最新作「インセプション」に至るまで、これまで数え切れないほどの大作映画で作曲されてきました。いったいどうしてこれだけの仕事を成し遂げてこれたのでしょうか?
「自分でも最近、このことを振り返ってみたところだよ。ひとつ言えるのは、私は映画監督たちといい仕事をしてきたということだと思う。クリストファー・ノーラン(「インセプション」の監督)と、「バットマン・ビギンズ」の仕事をはじめた頃、彼はいわゆる「ブロックバスター(売れ線)」タイプの映画はまだ手がけていなかったが、私のやっていることが面白いと考えていたんだ。それで彼は私に電話してきて、一緒に冒険しないかと誘ってくれた。他の監督にしてもそうでね、いつも監督が直接私に電話してくれる。プロデューサーや事務所ではないんだ。もし監督が興味を持ってくれたら、物事は始まるんだよ。たとえば、「ダークナイト」の後でガイ・リッチーが電話をくれた時も、私はそれまで一度も彼と話したことはなかった。彼は「シャーロック・ホームズ」を手がけていて、編集室に行くたびにいつもエディターが 「ダークナイト」の影響を受けたテイストをそこらじゅうに加えるので、うんざりしていたらしい。それで彼は何をしたかというとなんと直接私に電話してきて、「ダークナイト」みたいな映画は作りたくないから何か別の音楽をつけてくれ、と言ったのさ(笑)。」
これらの映画には共通して、ある種の暗い雰囲気がありますが…
「もちろん、今まで挙げた映画は暗い面を持っているけれど、同じ時期に私はとてもハッピーな映画の音楽も作曲していたよ。「カンフー・パンダ」や「マダガスカル」なんて楽しくてしょうがないだろう? いつも陰鬱な事をしているわけではないんだ。コメディのような仕事をしているといつも私は何かダークな事をしたくなるし、暗い映画の仕事をしているとコメディがやりたいと願うんだ。「インセプション」の後もまたコメディをしていたわけだけど…まったくいつも同じさ。物事が始まると大きな洪水が押し寄せてきて、バランスを保つのが一苦労なんだよ。」
「インセプション」の音楽はいったいどうやって思いついたんですか?
「「ダークナイト」を終えた直後、クリスが台本をくれたんだ。今ではずいぶん前のことになるけれど、私たちは互いに会い、電話をし、色々な事を話し合った。音符や音楽のスタイルについてじゃなくて、我々が何をしたいか、これは何についての映画か、秘められたメッセージは何か、映画の中での音楽の役割はどれくらい大きいか、といったことでね。よくビーチに行き、周りで互いの子供たちが遊びまわる中、父親としての日常を感じながら語り合ったよ。そして映画のフィーリングについて理解を深めていった。クリスは私に何かを提示して、私からアイデアを引き出すのがとても上手いんだ。
映画音楽家の仕事は映画監督のやれと言ったことをすることだけではない。監督の期待を裏切ることも必要なんだ。君は君自身のアイデアを思いつかなきゃいけない。そしてクリスはアイデアの聞き手に回るのも上手い ― 時には誘導するのもね。一方、私も映画を分析するのが得意で、脚本や話の展開、観客の視点でどういう場面が理解しにくいか、また音楽によってどういう風に理解を助けられるか、などという事を指摘できる。
「インセプション」は複雑な映画だけど、実は脚本上はとてもシンプルだったんだ。クリス自身がとても美しく、シンプルに書いたストーリーでね、私にとっても読む分にはわかりやすかった。だけどスクリーンに映し出された瞬間に、この話はとても複雑になる。そこで音楽の果たす役割というのが、映画全体に渡って、感情的なアンカーとして存在することだった。音楽に身を任せれば、たとえ場面ごとに混乱が生じたとしても映画の全体像を理解できる、そういう役割だよ。この映画でクリスは、時間について描いている。私にとっては、この深く悲しく、存在にまつわる疑問に満ちたラブストーリーは、「夢」についてというより「時間」についての映画に思えるね。」
フィルムスコアリングのベテランであるあなたでも、未だに難題にぶつかることってありますか?
「どんな映画にも難題はあるよ。これは反復作業を伴う類いの仕事とは違って、慣れればうまくいくというものではない。実際誰もがいつも私に、何か新しい、予想外のことを要求し続けているっていう状況で、私はいつも白紙の状態で仕事を始め、自分自身を再発明し、"zeitgeist" (時代の精神)より少し先を行く仕事をしなけりゃいけないんだ。フィルムコンポーザーの仕事は果てしない難題だ(笑)― 毎日がジレンマみたいなものだよ。」
だからこそ、あなたには 100% 信頼できる DAW が必要なのですね。Cubase はあなたの作曲作業にどんな風に役立っていますか?
「クラッシュしないことだよ ― いや、まじめな話、Cubase は私がびっくりするぐらい、何をさせてもひるみも揺らぎもしない。これは凄いことだ。正確にどれだけのオーディオトラックを使うかは覚えていないけれど、いつも5.1チャンネルの制作だからトラックの数はいくらでも増えていくし、MIDI トラックも300か400、同時に走らせる。それに「インセプション」では、最後の最後まですべてをバーチャルで作業する方向だった。オーケストラやギタリストのジョニー・マーの他は、ミックスの最後までシンセもバーチャルだった。
それに加えて Cubase は本当に音がいい。Cubase では入れたものがそのままの形で出てきて、他のシステムのようにカラーリングされないんだ。もし誰かが Logic で作ったトラックを持ってきたら、すぐわかるよ。何で録音したか、私ははっきり聴きわけることができる。また Cubase が好きな理由のひとつは、私は他の誰にも似たくないからでもあるんだ。つまり我々は決してライブラリーのサウンドを使ったりはしない。映画館で、1億6千万ドルの制作費をかけた映画を観ているとき、隣の映画館の誰かの映画と同じサウンドが聴こえたらがっかりするだろう? だから我々は全てを一から作り上げる。それだけに、どんなことをさせても色づけのないソフトウェアのクオリティが大切なんだ。初期のデジタルレコーディングではこういった癖が顕著で、誰でも「これは何年の録音だ」とわかるような音の違いがあった。他の DAW だと、今後もこういうことが起こるだろう。自分の作った作品を音質で年代分けされたくはないだろう? 音楽は時代を超えて残るべきだし、だからこそ DAW は可能な限り透明な存在でないといけない。」
Cubase の機能で特に気に入っているものはありますか?
「オーケストラでの作曲において VST Expression はこの上なく最高だね。これは完璧に筋が通っている。考えてみれば、何百年もの間音楽家が用いてきた簡単な記譜法が、このすばらしいシーケンサーに理解できなかったことがおかしく思えるよ。もちろん、伝統的なやり方を踏襲できることもよいが、私にとってはこれをプラグインのソフトシンセで実現できることがもっと面白い。」
オーケストラやジョニー・マーについての話がありましたが、他にはどんな人たちが「インセプション」の音楽に関わったのですか?
「もちろん、映画音楽は一人が座っていてはできない。他にも多くの人々が関わっているよ。メル・ウェッソンらがサウンドデザインの多くを、ローン・バルフェらがアレンジ、プログラムなどの作業をしてくれた。ここでは多くの物事をネットワークでやっているんだ。我々はみんな同じセットアップを持っているから、ファイルを共有することができる。誰かのシーケンスをネットワークから取り出して作業するといったことができるんだから、実に効率的だよ。」
あなたが使うバーチャルインストゥルメントはどういったものですか?
「厳選している。メインは Urs Heckman が作った Zebra で、シンセサイザーに使う。しかしハードウェアも多用するよ、古いムーグモジュラーを MIDI インターフェースを通したりしてね。また、一から作り上げたカスタムメイドのサンプラーもある。Mark Wherry が作ってくれたもので、技術的にも最先端のものだ。そして自分たちのライブラリーを作っているんだけど、次から次へと追加するものだから、終わりがない作業なんだ。しかし、サンプルの難点は、飽きてしまうことだね。残念ながら、同じ鍵盤を押す限り同じサウンドが返ってきてしまう。なぜ人々が自分自身のサンプルライブラリーを作らないのか、私には理解できない。そんなに難しいことではないし、少しの時間と楽器のとても上手い友人、それに録音する部屋があればいいだけなのに。それに自分で作った方がいい音がするよ、何しろカスタムメイドだからね。」
あなたはビデオゲームのための音楽も以前作っていましたね。今まで、映画音楽以外のジャンルに集中したいと思ったことはありませんか?
「私は、大きな自由を与えてくれる映画音楽の仕事が好きだよ。ヴァース~コーラス(ポピュラーミュージックでの一般的な曲の形式)など気にしなくていいし、流行っているポップソングを全てチェックする必要もない。スタイルを変えてもいいから、「カンフー・パンダ」と「ダークナイト」を同じ年に作ったりできる。私の求めるのはいいフックといいコーラス、いい曲、そして価値のある作品なんだ。「インセプション」は今までやった中でも最も自分で作りこんだ作品で、言うなれば自分のレコードのようなものだよ ― 5.1で作った事を除けば。私は、自分のサントラをステレオで聴くことに耐えられないんだ。サラウンドスピーカーが自分の周りにないと、世界の半分が無くなったような気分になる。また他に映画音楽が好きな理由は、映像情報があることだね。"Das Auge hoert mit" (目もまた聴いている)ということさ。ライブパフォーマンスを観ていると、レコードを聴くときとは全然違うだろう、映画でも同じことで、いつも音楽に映像がくっついていることが素晴らしい ― 映像が音楽を完成させてくれるんだ。」
お忙しい中ありがとうございました。最後にもう一言いただけますか?
「こういった映画が天文学的なコストをかけて制作されたことを考えてもらえば、彼らがそれだけの信頼をこの Cubase に置いてくれているということがわかると思うよ。Cubase は完璧に動作してくれる。我々は締め切りに常に追われ、考え付く全てをやりとげなければいけない。私がこれだけの実績を築けたのも、Cubase が今日どれだけ信頼できるツールかという事の証明だよ。とても先進的なプログラムでありながら、誰でも実に簡単に音楽を作ることができる ― もっとも、私はずいぶん長く使っているから、言い切るのは難しいかもしれないけどね。とにかく DAW にとって大切なのは、頭に思いついたどんなアイデアでも、できる限り素早く具現化できる、ということなんだ。」”
という記事でしたが、彼の作曲の考え方、方法が少し分かるような気がしてきました。
上記の映画作品も参考して頂き、ハンス・ジマ-の世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。