こんにちは。コンテンツ部顧問のnoriです。今回はクリストファー・ノーランの作品である「インターステラ-」を鑑賞して現代物理学にちょっと触れてみましょう。
いまから約10年前の映画ですから、物語自体の解説は数多くあります。
分かりやすい解説は、以下の通りです。
2014年に公開され、世界的に話題を集めたSF作品『インターステラー』は、SFというファンタジーでありながら物理学者の科学考証に基づいたリアルな描写が魅力的です。しかし、映画の主題は科学の部分ではなく、違うところにあると考察されています。
『インターステラー』のあらすじ
突然の環境変化による異常気象の発生と、それに伴い食糧難によって人類は滅亡の危機を迎えます。“地球の終わり”に対して抗うことができない人類は、ただ最期の時を待つしかありませんでした。
そんな中、トウモロコシ農場を経営していたクーパーの周辺で不思議な出来事が起こります。娘・マーフの部屋にある本棚から突然たくさんの本が落ちてきたのです。マーフは幽霊の仕業だと言いますが、元宇宙飛行士のクーパーは非科学的だと一蹴します。
しかし、それは幽霊の仕業ではなく何らかの信号だと気付いたクーパーとマーフは、示された座標に何があるのか確かめに出発します。一晩かけてたどり着いた場所には極秘の研究施設があったのです。
研究施設ではNASAの職員が世論の非難を避けつつ、宇宙探索の研究を続けていました。そこでクーパーは宇宙飛行士時代に知り合ったブランド教授と娘のアメリアに再会します。
ブランド教授はこのまま地球に留まっていれば人類は滅亡すると考え、人類が住める惑星を探していることを説明しました。実は48年前に地球の近くにはワームホールが突如出現しており、何度か探索船を送った中で3隻から人類が生存できる可能性の高い惑星を見つけたという知らせが入っているというのです。
この知らせを元にブランド教授は「ラザロ計画」という作戦を遂行しようと考えていました。ブランド教授は元宇宙飛行士であるクーパーにもラザロ計画に参加してほしいと頼みます。最初は断っていたクーパーですが、娘の未来を救うためにも引き受けることにしました。
ブランド教授の娘であるアメリアやその仲間と共に宇宙船エンデュランス号へと乗り込んだクーパーは発信を受けた3つの惑星に向かいます。最初に向かった水の惑星で、そこでは1時間が地球の7年に相当します。津波に襲われた宇宙船を直すために数時間過ごした結果、地球では23年もの月日が経過していました。
次に向かったのは氷の惑星です。この星で最初の先遣隊を指揮していたマン博士を発見します。しかし、マン博士は氷の惑星が人類は生きられない星と分かっていながら、一人で孤独に死にたくないという想いが勝り、人類が生きられる星だと知らせを送っていたのです。
任務を遂行するために3つ目の惑星へ向かおうとするクーパーとアメリアですが、マン博士は船を奪おうとします。ここで操縦を誤ったマン博士はエンデュランス号を破壊してしまいました。
エンデュランス号は壊れましたがクーパーは自分の船をドッキングさせることで、機能を復旧させることに成功しました。しかし、それでも地球への生還は難しいと判断したクーパーは、自らを犠牲にアメリアを3つ目の惑星へ届けようと考えます。
果たしてクーパーやアメリアは無事に人類が生きられる惑星を見つけることができるのでしょうか?また、クーパーと娘のマーフは生きて再会することはできるのでしょうか?
気になる箇所を解説
インターステラーの気になる箇所を掘り下げて解説していきます。インターステラーは緻密な科学考証で知られていますが、説明は少なく一度見ただけでは理解しにくい部分もあります。そういった部分も含めて詳しくご紹介していきましょう。
先遣隊が発見した3つの惑星
クーパーが参加したラザロ計画では、先遣隊によって発信された信号を頼りに人類が暮らせる惑星を探していきます。先遣隊が発信した信号は人類にとってまさに希望と言えるものでした。
ミラー飛行士が発見した水の惑星
最初にクーパーたちが訪れたのは水の惑星です。地面が海に覆われている水の惑星は、巨大なブラックホール・ガルガンチュアの最も内側を公転していました。
その影響で重力が地球の1.3倍にも及んでおり、時間の流れを遅くしていました。なんと水の惑星で1時間過ごすと、地球では7年の歳月が過ぎてしまうのです。
結局この星でミラー飛行士の姿は発見できず、着陸船の残骸だけが見つかります。何度も信号を送り続けていましたが、水の惑星と地球では時間の進み方が異なっていたため、実際は着陸してから数時間でミラー飛行士は命を落としたと考えられます。
しかも水の惑星は巨大な津波が発生する危険な星で、結果的にクーパー達は足止めを喰らってしまいます。その結果、水の惑星では数時間しか経過していなかったのが、地球では23年もの月日が経っていました。
ここで注目したいのが、時間と重力の関係性です。水の惑星と地球とでは時間の進み方が異なり、約5万倍もの違いが見られます。
相対性理論において、重力は空間を歪ませることで時間の進みを変化させるとしています。そのため、水の惑星と地球で時間の進み方が違うのも1.3倍の重力が影響しているためと思ってしまいがちです。
しかし、地球の1.3倍の重力があるからと言って実際は人間が体感するほどの時間の遅れは起きないと言えます。もし体感するほどの時間の遅れが生じているのなら、例えば地球よりも6分の1の重力しか存在していない月に着陸した宇宙飛行士たちは、年老いて戻ってくるはずです。
つまり、惑星内の重力よりもガルガンチュアの超重力によって、体感するほどの時間の遅れを発生させていたと言えます。
マン博士が発見した氷の惑星
クーパー達が次に訪れたマン博士が発見した氷の惑星は、一見すると人類が生きていけるような星には見えません。マン博士もそのことに気が付いていたのですが、一人で死を待つのに耐えられず、嘘の信号を送り続けていたのです。
氷の惑星には大気に多量のアンモニアを含んでいました。アンモニアは人間が濃度0.1%以上でも吸引してしまうと、命の危険に陥ってしまうと言われています。そんな惑星で一人残されたマン博士は絶望に陥り、精神的におかしくなってしまうのも無理はありません。
マン博士は元々研究に命を燃やすような人物であり、ラザロ計画にも自分自身が任務の遂行に出るほどの情熱を抱いていました。それが一人で死ぬのは嫌だからという感情的な理由からクーパー達を呼んだのだと考えると、かなり人間的な行動を取っていると言えます。
インターステラーは理論的に物語が進むことも多いのですが、そのせいか人間的な感情や行動による展開があるとそれが非常に際立って見えます。後に詳しくご紹介しますが、そういった部分も製作者側は意図していたのではないかと考えられるでしょう。
エドマンズ博士が発見した惑星
水の惑星や氷の惑星の他にも、もう一つ信号の発信があった惑星があります。それは、エドマンズ博士が発見した惑星です。水の惑星を脱出した段階で思った以上に燃料が消費されてしまい、マン博士の惑星に向かうか、それともエドマンズ博士の惑星に向かうかで一同は悩みます。
そんな中でアメリアはエドマンズ博士の惑星へ向かおうと強く言います。しかし、アメリアはエドマンズ博士の恋人であることを見抜かれてしまい、結局マン博士の惑星へと向かうことになったのです。
エドマンズ博士の惑星は最後のラストシーンで少しだけ登場します。クーパーがアメリアへラザロ計画の遂行を託し、エドマンズ博士の惑星へと送ります。
そして無事にアメリアは目的の惑星に到着することができました。アメリアが惑星に到着してからエドマンズ博士の宇宙船を何とか発見しますが、残念ながら彼は既に亡くなっていました。
また、アメリアは船外にいるにも関わらず宇宙服のヘルメットを脱ぎます。エドマンズ博士が発見した惑星は、人類が生存できる惑星だったのです。
最終的に一人となってしまったアメリアでしたが、エドマンズが作ったと思われる居住スペースを利用し、人工知能ロボットのCASEと共に人類の存続を決意しました。アメリアにとっては最愛の恋人を失った悲しみは消えていませんが、それでも人類の未来をつなげるために研究者としての意志やエドマンズ博士の想いを受け継いだのだと考えられます。
ラザロ計画の全貌とは?
人類を救うため秘密裏に行われていた「ラザロ計画」では、地球の近くに突如出現したワームホールを使い、別の銀河系へ移動して地球と同じように人類が生きられる環境を探し出すというものでした。
このラザロ計画には2つのプランが用意されています。2つのプランの目的や、映画では詳しく説明されなかったラザロ計画の結末について解説していきましょう。
プランA・プランBの内容
ラザロ計画にはプランAとプランBが用意されていました。ブランド教授はクーパーにプランAしか伝えておらず、物語が進んでいく中でプランBの内容を知ることになります。
・プランA
プランAでは大規模なスペースコロニーを作り出し、人類が生きられる惑星へと移住させるというものです。別の星へ移住することが目的となるため、地球に住む人類は救われることになります。
ブランド教授はスペースコロニーを構築するために、重力方程式を解いて重力制御を行う必要があると考えていました。しかし、ブランド教授は死ぬ間際、マーフへこれまでの嘘を告白します。
実は、ブランド教授は既に重力方程式を解いていたのです。その結果、重力の本質を知るにはブラックホールの中心部に存在する「特異点」を観測し、そのデータを持ち帰らなくてはならないことが分かりました。特異点の観測は現実的に不可能として、ブランド教授は重力制御を諦めていたのです。
つまり、ブランド教授は最初からプランAではなくプランBの実行を目的としていました。
・プランB
ラザロ計画の本当の目的とされるプランBは、人類の受精卵を人類が生きられる惑星へと持ち込み、そこで孵化させて新たに人類を増やしていくという内容です。「種の保存」だけを目的にしており、地球上に住む人類は助からないことになります。
マーフはブランド教授からプランAは何十年も前から現実的に不可能だと分かっていたこと、本来の目的はプランBだったことを知らされ、それを分かっていてクーパーは宇宙へ旅立ったのだと思い込んでしまいます。
クーパーやアメリアは元々プランAをラザロ計画の目的と考えていましたが、マーフが送ったビデオレターを見てその内容に衝撃を受け、憤慨しました。そもそもクーパーは子ども達の未来を救うために宇宙船へと乗り込んでいるため、憤慨してしまうのも無理はないでしょう。
「ラザロ」はキリスト教に由来している?
ブランド教授が最初にクーパーへラザロ計画を説明する際に、クーパーは「不吉な名前だ」と言います。ラザロという名前は、元々聖書に登場するユダヤ人と同じ名前です。
ラザロは一度死んでしまったものの、キリストが起こした奇跡によって蘇生を果たしました。この名前からクーパーは一度死んでいる=人類は生き残れないと解釈するのですが、ブランド教授は「生き返ったのだ」と反論するのです。
このセリフから、恐らくブランド教授にとってプランBを遂行するためにラザロ計画が立ち上がったのではないかと考えられます。マン博士もプランBについて知っていたので、恐らく最初からプランBが目的で、その後人類を救う目的のプランAが取って付けられたのでしょう。
実は、この他にも物語の中に宗教的な要素が見られる部分は多く発見できます。例えば最初に人類を救おうと立ち上がった先遣隊の乗組員は12人いました。人類を救うために立ち上がる12人はキリストの使徒をイメージできます。
また、クーパーの名前は“ジョセフ”です。新約聖書の中で聖母マリアの夫であり、キリストの父として登場するヨセフ(ジョセフ)と同じ名前が付けられています。制作陣は名前も狙って付けたと考えられるでしょう。
結局ラザロ計画は成功したのか?
最終的にラザロ計画はプランBではなく、プランAが遂行されることになります。クーパーが宇宙で漂流しているところを助けられ、到着した場所は「クーパー・ステーション」という大規模スペースコロニーでした。
マーフはブランド教授の死後も諦めず、研究を続けていきクーパーの送ったデータによって大規模スペースコロニーの打ち上げに成功していたのです。ただし、この時はまだアメリアが到着した惑星にはたどり着けていません。
映画の中ではプランAに移行し、計画は進んでいることは分かりましたが、成功と結論付けるにはまだ早い状況と言えます。それでも大規模スペースコロニーの打ち上げに成功している時点で、地球に住む多くの人類は救われることになったと考えられます。
ラストでクーパーが助かった理由
氷の惑星でマン博士の襲撃に遭い、宇宙船エンデュランス号は大きなダメージを受けてしまいます。酸素や燃料も残りわずかという中で、クーパーはアメリアだけをレインジャーに乗せ脱出させることにしました。
この作戦ではエンデュランス号をガルガンチュアに接近させ、重力ターンによってエドマンズの惑星まで届けようと考えます。ただし、この作戦によってクーパーはガルガンチュアの中へ落ちていってしまいました。
それでも最終的にクーパーは生き残り、宇宙を彷徨っていたところを宇宙船に発見されます。なぜ超巨大なブラックホールのガルガンチュアに落ちてもクーパーは助かったのでしょうか?
ブラックホールの深部にたどり着いたクーパー
ガルガンチュアに落ちたクーパーは、一緒にいた人工知能ロボットのTARSにブラックホール内部のデータを取得するように指示します。この時点でクーパーはまだプランAを諦めてはいなかったため、データを取得するよう指示したのだと考えられます。
その後、重力の衝撃によって意識を朦朧とさせながらも、脱出装置を起動させます。落ちていく感覚を受け、気が付くとクーパーは格子状の奇妙な空間にいました。
格子状の奇妙な空間はマーフの部屋を通じて過去・現在・未来とつながった空間であることに気が付き、クーパーはマーフに向けて交信を試みます。
ポルターガイストの正体は娘に送ったメッセージだった
クーパーは重力波を使い、マーフの部屋にある本棚から本を落とすなどして自分の存在を伝えようとします。ここで冒頭のマーフの部屋で起きたポルターガイストの正体が判明しました。実は未来のクーパーが過去のマーフと交信するためのものだったのです。
クーパーのいる空間からは様々な時代のマーフの部屋が見えました。その中にちょうどクーパーが宇宙へ旅立つ日があることを見つけ、マーフへ自分を引き留めろと伝えようとします。しかし、結局マーフにその声は届かず、過去を変えることはできませんでした。
過去は変えられないが、未来は変えられると悟ったクーパーは、TARSが取得したブラックホールの内部データを腕時計の秒針からモールス信号でマーフに伝えます。TARSはマーフに理解できるのか?と問いますが、「俺の娘だ」と言ってデータを送り続けました。
ちょうど旧家に戻っていたマーフは、過去に起きた現象はすべてクーパーから送られたものだったことに気が付きます。さらに、腕時計の秒針の動きにも気が付き、それがモールス信号であることが分かりました。
このモールス信号から特異点のデータを取得したマーフは、重力制御に成功します。その解が見つかると、空間は閉鎖していき土星にたどり着いた際に入ったワームホールへ吸い込まれていったのです。
5次元人が創り出した「テサラクト」
結局、格子状の奇妙な空間は何だったのかというと、実は5次元の「テサラクト」という空間でした。このテサラクトは一時的に5次元の存在になれる空間と考えられます。
諸説あるものの、人間が今生きている世界は3次元空間に時間の概念が加わった4次元となっています。4次元は基本的に空間を移動することは可能ですが、時間を移動することはできません。
しかし、5次元空間では時間と空間を自由にコントロールすることができます。そのため、過去・現在・未来のマーフへメッセージを伝えられたのでしょう。
では、このテサラクトは自然発生したものなのでしょうか?映画では深く語られていませんが、恐らく5次元人によって創り出されたものだと考えられます。
そもそも48年前に地球の近くで突如発生したワームホールも、ブランド教授は“彼ら”と呼ばれる存在によって作られたものだと考えていました。この“彼ら”が5次元人である可能性は非常に高いです。
生き残れたのは5次元人のおかげ?
マーフにデータを送り続けたクーパーでしたが、その後テサラクトは閉鎖し始めてしまいます。それから最初に入ったワームホールへと吸い込まれてしまうのですが、その後土星付近を漂流しているところを発見され、無事に助かったのです。
この結果について、疑問点も多く挙がっています。映画の中でも特に生き残った理由になるような描写はありませんし、制作陣からもクーパーが生き残ったことについて明確な説明はありませんでした。
ただし、5次元人が存在することを仄めかす描写は見られます。そのため、クーパーが生き残ったのは5次元人によって手引きされた結果なのかもしれません。
5次元人の正体についても明確にされていませんが、最初にワームホールを作ったのも、クーパーがブラックホール内部のデータをマーフへ送信できたテサラクトを作ったのも彼らです。
もしかするとラザロ計画が完全に成功し、別の惑星へと移住を果たせた未来の人類が、5次元人として地球の未来を救うために導いたとも考えられます。
インターステラーで描かれた主題とは?
インターステラーは人類を救うために宇宙に挑戦するSF作品で、ファンタジーとは思えないほどリアルな科学的要素もたくさん盛り込まれていました。しかし、監督のクリストファー・ノーラン監督はインターステラーについて、「ただの宇宙映画ではない」と語っています。
ノーラン監督がインターステラーで描きたかったこととは何だったのでしょうか?
緻密な科学考証の裏で描かれた「愛」
ワームホールやブラックホールをできる限り一般相対性理論に基づく正確なものにするために、キップ・ソーン物理学者が科学コンサルタントを務めました。理論に基づいた緻密な科学考証はこの映画にリアリティを与えています。
そんな科学考証の裏で描かれたのは、人間愛です。例えば主人公のクーパーは子どもの未来を守るために宇宙船へと乗り込みました。これはまさしく「家族愛」と言えるでしょう。
また、アメリアはエドマンズ博士の惑星に行くことを推した時、クーパーから「私情を挟んでいる」と言われてしまいます。しかし、アメリアは「愛は人間が発明したものではない。愛だけが次元や時間、空間を超える手助けをしてくれる。だから愛を信頼しなくてはいけない。」と述べています。
「愛」は非科学的なものという認識をされてきましたが、アメリアは重要な判断をする基準として愛を持ってくることは決して非科学的ではないと伝えているのです。
確かに人間は愛によって行動を決めることが多いです。例えばクーパーは人類を救うよりも子どもへの愛から宇宙船に乗り込むという行動に移りました。
インターステラーは現代物理学をベースとするハードSFの主題を「愛」にしたことで、多くの人がエモーショナルを感じられる作品へと仕上がったのです。
インターステラー解説まとめ
今回はインターステラーをネタバレありで解説してきました。インターステラーは死にゆく地球から離れ、新たな惑星を見つけるために宇宙へ旅立つという作品です。
途中訪れた惑星では津波に襲われたり、計画の嘘が発覚し憤慨したり、命を狙われたりするシーンもあるため、中には「怖い」と思った人も多いでしょう。この怖さはハードSFだからこそのリアリティによっても生み出されていると言えます。
しかし、最終的には「愛」によって計画が成功し、人類は希望を見出すものになっていました。一度見て「怖い」と感じた方も、主題が人間の愛であることを念頭に置きながら見ると、1回目と違って見えてくるかもしれません。
と、この10年間にインターステラーの解説記事は山のようにあるが良くまとめられていると思う。
僕の感想はこうだ。
「父と娘の親子の愛と赦し」の物語
日本の解説やネタバレをみても親子の愛情については語られることがほとんどだが「赦し」がない。この赦しがないと最後のシーンで親子間の赦しが成立しないとクーパーは旅たつことが出来ないだろうと思った。それは最初に鑑賞したときの10年前の感想と変化はない。良く出来た作品だと思った。
少し現代物理学を知ろう(学ぼう)
この映画の話を自分なりに分析すると以下のようになる。
α:娘の約束を守った父親の話
β:人類を救った親子の話
ところが α<β の印象が強い。すなわちβの話の規模があまりにも大きいため、我々の目はそちらに向きがちではありますね(笑)。
そこに現代物理学が絡んでいるので難しく感じるのかもしれません。
そこで現代物理学を簡単に解説して映画の理解をより深められればと思います。
古典物理学と現代物理学:
古典物理学
学校で学ぶ昔ながらの物理。身の回りにある現象、物体の運動、機械でのエネルギー伝達、電気や音の発生などを扱う。19世紀末には、古典物理学は科学のすべての謎を解いたと信じた人もいた。1910年、現代的理論の出現によりこの考えが大きな誤りであることが証明された。
ex)古典力学、電磁気学、統計力学、音響学、光学、熱力学、物性
現代物理学
20世紀初期に物理学が成熟するのにつれて、小さな誤差でも重要になる極限的な条件では古典物理学に破れが生じることがわかった。相対性理論は時間と空間を巨大なスケールで説明するために発達した。一方、量子力学は物質を極微のスケールで研究する。21世紀物理の壮大な夢は、この2つの理論を統一することである。
ex)相対性理論、量子力学、原子核物理学、物性物理学、素粒子物理学、天体物理学と宇宙論
この現代物理学がこの映画で活かされていることは事実なので、少し現代物理学に少し触れることで、この映画の理解が少しでも深まれば幸いと思っています。
重力異常(重力アノマリー):
重力アノマリーの提示は、クーパーの飛行機事故、本棚から落下するおもちゃ、低空飛行するインド空軍のドローン、そしてコンバインとなります。
重力異常(じゅうりょくいじょう、gravity anomaly)とは、重力の実測値(あるいは観測値)と、理論モデルから予測される値との差のことです。測地学・地球物理学の分野と、天文学・宇宙物理学の分野の双方で、上記の意味で同じ用語が使われていますが、対象が異なるため概念も異なります。
天文学、特に宇宙物理学においては、重力異常とはある宇宙の領域の重力の観測値と理論値(質量の空間密度の予測値から計算される)との差を指します。重力異常の存在は、その宇宙の領域における実際の質量の空間密度分布が予測値と異なっていることを意味します。
このような重力異常はいくつか発見されており、例え我々自身の銀河系の観測された回転運動の特性は、目に見える(光学的に観測できる)物質が作る重力だけでは説明がつかず、その10倍程度の目に見えない何かしらに由来する質量に相当するものが必要であるはずであることから、仮説上の存在として「ダークマター」という名称で研究されています。また、銀河間空間の重力の値は銀河の特有速度 (peculiar velocity) の観測値から計算されますが、これからうみへび座とケンタウルス座の方向、銀河系から1.5億光年から2.5億光年の距離にグレート・アトラクターと呼ばれる重力異常が見つかっています。
相対性
相対性(relativity)とは物理学において、ある物理現象が異なる観測者から見て同一の法則に従うことをいいます。力学的現象においては、互いに等速度運動する2人の観測者から見て現象は同一の法則すなわちニュートン力学の法則に従うことが知られており,これをガリレイの相対性と呼びます (ガリレイ変換 ) 。光や電磁気現象についても互いに等速度運動をする2人の観測者に対する相対性の要請を課することにより,光の媒質としてのエーテルの存在が否定され、アインシュタインの特殊相対性理論が導き出されました。さらに重力場内の観測者と加速度運動をする座標系にある観測者とから見た力学的および電磁気的現象の同一性の要請から、一般相対性理論が提唱されました。
相対性理論
「時間や空間の長さは,誰にとっても変わらない」。このような考えは、長い間「常識」として信じられてきました。ところが、20世紀初頭この一見あたり前とも思われる常識を,ことごとくくつがえす理論が提唱されました。それがアインシュタインの「相対性理論」です。
相対性理論によれば,「時間や空間は絶対的なものではなく,伸び縮みするものだ」といいます。高速で移動するロケットの中では空間が縮み、時間の進み方が遅れるのです。さらにアインシュタインは、時間と空間のゆがみが物体どうしが引き合う重力の正体であることも突き止めました。今ではこの奇想天外な理論が、広大な宇宙の成り立ちにせまる上で欠かせない物理学の土台となっています。
この考え方が、クーパが自分の腕時計とペアになっている腕時計をマーフに渡すシーンの根拠になりますね。
ワームホール
ブラックホール→ホワイトホール→ワームホール
ブラックホール
ブラックホールほど、有名かつ、そしてその本当の姿が知られていなかった天体はなかったでしょう。
2014年の映画『インターステラー』では、きわめてリアルなブラックホールが描かれ、は、ブラックホールによって惑星が飲み込まれてしまう様子が描かれました。図鑑などで、黒い穴の空いたドーナツのような姿をしたブラックホールのイラストを見た人も多いかもしれないでしょう。
ところが、これらの図鑑や映画が作られたころは、じつは誰も、ブラックホールの本当の姿を見たことがなかったのです。人類がその姿を初めて見たのは2019年4月のことであり、それ以前に作られた図鑑や映画に出てくるブラックホールは、すべて想像上の姿だったのでした。
そもそもブラックホールとはどのような天体なのだろうか。ブラックホールとは、非常に大量の物質が、極限まで狭い領域に押し込められた天体のことを指します。このため重力がとても強く、あらゆるものを吸い込むという特徴をもち、光さえも抜け出すことができないのです。そこから、「真っ黒(ブラック)」で、あらゆるものを吸い込む「穴(ホール)」として、「ブラックホール」と呼ばれています。
ブラックホールの研究の起源となる発想が生まれたのは、18世紀のことでした。当時のフランスの科学者ピエール=シモン・ラプラス(1749~1827)と、イギリスの天文学者ジョン・ミッチェル(1724~1793)はそれぞれ、ニュートン力学のひとつである万有引力の法則から、もし光も万有引力の影響を受けるのだとしたら、きわめて大きな重力をもつ天体からは光が抜け出せないのではないか、そしてそのような天体が存在しうるのではないか、と推測しました。しかし、当時この考えは受け入れられず、いったん忘れ去られることになります。
その後、20世紀になり、同様の天体のアイディアがふたたび提唱されることになます。そのきっかけとなったのは、かの有名な物理学者のアルベルト・アインシュタイン(1879~1955)でした。
アインシュタインが「一般相対性理論」を発表した直後の1915年、ドイツの天文学者カール・シュヴァルツシルト(1873~1916)は、一般相対性理論の基礎となるアインシュタイン方程式を研究したところ、ある空間にきわめて高い質量の天体が存在する場合、その空間自体が重力で歪み、「シュヴァルツシルト半径」と呼ばれる特殊な球形の領域が発生。そして、それに近い場所ではその重力で光が吸い寄せられ、さらに領域の内側では光が抜け出せなくなることを示す結果が得られました。これを「シュヴァルツシルト解」と呼び、ブラックホールの存在を示唆する、最初の理論的な研究となりました。
この研究が発表された当時もまだ、そのような天体は数式の上にだけ存在する、いわば「机上の空論」であり、実際には存在しないのではないか、という見方が根強かったのです。
ところがその後、星がどのように生まれ、進化し、そして終焉を迎えるのかといった研究が進んだことを背景に、もしかしたらそのような天体が存在するのかもしれないという可能性が芽生え、徐々に天文学者に受け入れられていきました。
たとえば1930年、インド出身の天文学者スブラマニアン・チャンドラセカール(1910~1995)は、白色矮星の質量には上限があることを導き出し、ある一定の質量(チャンドラセカール質量)よりも大きな恒星は白色矮星として存在することができず、そのうちとくに大質量の恒星は、自らの重力で押しつぶされ、ブラックホールになりうると発表しました。
また、1939年には、米国の物理学者ロバート・オッペンハイマー(1904~1967)などが、質量がきわめて大きな恒星は、白色矮星はもちろん、当時提唱されていた「中性子星」にもならず、ある上限を超えると、自らの重力で収縮(重力崩壊)する状態が続き、ブラックホールになると発表しました。
ちなみに、こうした重力崩壊し続ける天体がブラックホールと呼ばれるようになったのは1967年ごろのことで、アインシュタインの友人であり、中性子星や重力崩壊の研究で名を馳せた米国の物理学者ジョン・ホイーラー(1911~2008)が、便宜的にそう呼び出したのが最初だといわれています。
ブラックホールという天体がどうやらありそうだということはわかりました。しかし、ブラックホールは非常に大量の物質が、極限まで狭い領域に押し込められた天体、すなわち、きわめて小さいことから、望遠鏡などで直接見ることは難しかった。ブラックホールがあるとしたらどのような天体なのか、どのようなメカニズムで生まれて存在しているのか、その周囲や内部はどうなっているかなどを、物理学や数学の数式のうえでこねくり回す、理論的な研究の対象でしかなかったのでした。
ブラックホールの存在を証明する挑戦
そのもどかしい状況に終止符が打たれたのは、1972年のことでした。「はくちょう座X-1(Cyg X-1)」という天体の観測結果から、これが連星であり、そしてその一方の高密度星が、太陽よりも10倍大きな質量をもつブラックホールであることが突き止められたのでした。
なぜ、この天体がブラックホールだとわかったのでしょうか。その鍵となったのは、ブラックホールの周囲に存在するガスや星が放つ、光や電波、X線などを捉えるという方法でした。
それまでの研究で、ブラックホールに吸い込まれていく物質は、ブラックホールの周囲に「降着円盤」と呼ばれる、円盤状の集まりを作るとされていました。そこで、円盤に含まれるガスが放つ特定の波長の電波を観測すると、電波のドップラー効果から、その回転速度を導き出すことができます。また、速く回転している物体には遠心力が強く働くが、この円盤が猛烈な速度で回転しているにもかかわらず、遠心力で飛び散ってしまわないということは、その遠心力に負けないほどの重力で円盤を強く引き付ける、質量が非常に大きな天体――すなわちブラックホールが中心に位置していると考えることができました。こうして、ブラックホールが存在するという間接的な証明がなされたのでした。
また2015年には、ブラックホール同士が合体するときに発生した「重力波」を捉えることに成功。この重力波を観測できたことも、ブラックホールの存在を裏付ける間接的な証拠になったと同時に、重力波を使った観測や研究(重力波天文学)が、ブラックホールの新しい研究手段としても注目を集めています。
こうしてブラックホールが存在することはほぼ間違いないとわかったものの、あくまで間接的にであり、まだブラックホールそのものを直接観測することはできなかったのです。この当時から、ブラックホールというと、黒い穴の空いたドーナツのような姿でお馴染みとなっていましたが、それはブラックホールそのものの姿ではなく、ブラックホールの周りにできる降着円盤が光ったり電波を出したりしたものを捉えたもの、あるいはそのデータをもとに作成した想像図だったでした。
しかし世界中の天文学者は、その中央にあるはずの真っ黒な穴――ブラックホールが存在する直接的な証拠を捉えるため奮闘しました。もちろん、ブラックホール自体はきわめて小さいため、直接見ることは難しい。そこで天文学者は、「ブラックホールのまわりに輝くガスのような明るいものがあれば、ブラックホールは『影』のように暗く見えるはず」と考えた。これを「ブラックホール・シャドウ」と呼び、アインシュタインの一般相対性理論から導き出せることでもありました。このブラックホール・シャドウもきわめて小さい。そこで、科学者と技術者たちは力を合わせ、きわめて細かいものまで観ることができる視力の高い望遠鏡を造るため、日夜研究と開発を続けました。
そして 2019年4月10日、「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」が、ブラックホール・シャドウを世界で初めて撮像することに成功したと発表しました。
ホワイトホールとワームホールとは?
ところで、ブラックホールがなんでも吸い込む天体なら、その吸い込まれたものはいったいどうなるのでしょうか?
これについては以前からさまざまな議論が行われており、物質の形状や種類、性質など、物質がもっていた情報は失われるという考えや、なんらかの形で保存されるという考えもあります。たとえば、かの有名な理論物理学者スティーヴン・ホーキング(1942~2018)は、この問題の熱心な研究者のひとりで、かつては情報は保存されないと主張しており、その正否をかけて他の科学者と賭けをしたこともあります。その後、他の科学者が「保存される」という研究成果を生み出し、ホーキングも検証の結果それを認めたことから、いまでは多くの科学者は「ブラックホールに吸い込まれた物質の情報は、なんらかの形で保存される」と考えています。
もっとも、この問題はまだ完全には解決しておらず、2018年にホーキング氏が亡くなったあとも、その意志を継いだ世界中の科学者によって研究が続いています。
さらに考えを進めると、ブラックホールに吸い込まれた物質はどこへ行くのかという疑問も生じます。
何人かの研究者は、アインシュタイン方程式を解くことで、あくまで数式のうえではあるものの、ブラックホールに吸い込まれたものを放出する天体として、「ホワイトホール」の存在が考えられるとしています。その可能性を最初に提唱したのは、1964年、ソ連(ロシア)の天文学者イゴール・ノヴィコフ氏(1935~)でした。
仮にそのような天体が存在するとしたら、ブラックホールの裏側にあってトンネルのような領域でつながっているのではないかという考えや、ホワイトホールの外側にブラックホールがあるのではないかという考え、あるいはホワイトホールが吐き出したものはすぐに外側のブラックホールに飲み込まれてしまうため、ホワイトホールとブラックホールは同じものと見なせる、などといった考えもあります。
また、ブラックホールに飲み込まれたものがホワイトホールへ向かって移動する際に通る、トンネルのような領域のことを「ワームホール」と呼びます。ワームホールの存在もまた、確認はされていません、一般相対性理論のアインシュタイン方程式を解いた結果として存在しうることが示されています。
この辺の知識で映画の中盤くらいまでの話の裏話の知識は補充できるでしょうか。
あとは5次元問題ですね。
クーパーがブラックホールに落ちた先には何があったか?
五次元時空空間がありました。本棚の裏に来たように見えたかもしれませんが、これはテッセラクト(英語のスペルと発音ではこちらの方が正しいと思われます)と呼ばれる五次元時空空間における物体です。映画で重要なことは、時間軸を自由に移動できることと、重力を使って過去と通信出来ることの二点だと思います。
私たちの住む世界は三次元の空間軸に一次元の時間軸を加えた四次元世界です。本棚の裏側のように見えるテッセラクトは、空間の次元が一つ多く、そこでは時間軸を空間軸のように移動することができます。それ故、クーパーは過去の世界を見る事が出来るわけです。そして、重力アノマリーを起こすことによって、過去とコミュニケーションを取ることが出来ます。別れの日にマーフに渡した腕時計の秒針を重力アノマリーによって震わせることによって、クーパーはTARSがブラックホール中心部で取得した量子データをマーフに送ることになるのです。
この辺が現代物理学と創造のSFが上手にまとめられているシーンだと思います。
あとは、映画の通り終幕に向かって行きます。
まだ不足している部分はありますが、現代物理学が宇宙を現在このように捉えていることが少しでも分かって頂けるとより深い理解に繋がるのではないでしょうか。今一度見直すとより面白く鑑賞できるかもしれません。